アイデアを提供できる機械設計 ~ 非メーカー企業の製品開発を支える

非メーカー向けの製品設計を得意とする機械設計 会社/製品開発 支援 フォーテック株式会社 代表取締役 操 心一氏に、製品設計の考え方、アイデアの生み出し方について話を聞きました。
最初に、会社概要について教えてください
弊社は2012年4月に、製品設計・機械設計会社として創業いたしました。機械設計、FEM解析、試作製作、量産支援を通じて、製品開発したい企業様のサポートをしております。
私の経歴としては大学卒業後、まず入社したのは東芝メディカル製造株式会社で、ここでは医療機器など装置系の機械設計を行っていました。次にカシオ計算機株式会社へ転職。携帯電話、電子楽器などコンシューマ製品の製品に従事します。何度か組織変更がありましたが、NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社のときに退職し、フォーテック株式会社として独立しました。
機械設計業に、どっぷり30年という感じですね。ドラフターでの設計から2D CADとなり、そして3D CADへ。IT革命の変遷をまさに身をもって体験してきた30年です。

お客様はどのような企業ですか?
創業してからのお客様は、大きく3タイプいらっしゃいます。
・設計者の手が足りなくて外部設計会社へ依頼したい製造メーカー
・新規事業を立ち上げ、その中で製品設計が必要なIT・ベンチャー企業など
・労働力不足を独自の道具や装置を作って解決したい建設業、運送業など
この中で、製造メーカー以外の企業は、非製造業であるところが面白いポイントなのです。世の中の背景として、IoTの伸展、労働力不足が「製品開発」市場を大きく変化させています。
IoTはモノのインターネット化と言われますが、これまで情報や通信を扱ってきたIT業界やセキュリティ業界がビジネスチャンスととらえて新規事業を始めています。また、建設業や運送業では人手不足が深刻な問題です。これまで2人で行っていたような作業を一人で行うための道具の開発など、ここでもまた、非製造業・非メーカーが「製品開発」に意欲的です。
長年、製品設計に従事してきた経験を活かし、このような非メーカー企業の製品開発をサポートしています。
非メーカーからの仕事は、メーカーからの仕事と具体的にどのあたりが違うのでしょうか?
非メーカーの企業様は製品開発の経験がありませんので、仕様が書けません。仕様というのは製品開発における「満たさないといけないルール」です。
そもそも機械設計という仕事は「仕様を満たす構造の構築」ですが、仕様そのものが存在していないのです。非メーカーとの仕事とは、まず相手が何をしたいと思っているのか理解し、仕様の提案を行うところからがスタートです。
お客様と一緒に仕様を作成していくということは、実際のところ、簡単なことではありません。従来の常識で考えると、製品仕様に責任を持つのはメーカーの役割です。だからこそメーカーなのです。しかし、3D CADが安価で利用できるようになると、「こんな製品があったらいいね」と気軽なアイデアから、ひとまず自分で形をつくって3Dプリンターで試作してみることも簡単にできるようになりました。
ものづくりの可能性が広がることは良いことでしょう?私達、機械設計者も、そのようなお客様とともに仕様を決めていくことに挑戦する必要があります。
「形を作ること」と「設計をすること」は異なります。その製品が最終消費者の手元に届いたときに、危険があってはいけませんし、すぐに壊れてもいけません。かといって過剰品質になれば価格競争力は失われ、売れない製品となります。製品仕様とは、相反する要素がたくさんある製品企画において、その製品がどうあるべきかという羅針盤であり、すべての基本なのです。
3D CADといえば、2D CADから3D CADへのシフトを経験されていますよね。一番大きく変化したことは何でしたか?
実は、2D CADから3D CADにチャレンジしたときに、すごく苦労しました。何が自分の中で課題なのかを理解するのに、何ヶ月もかかり、「何が分からないのか分からない状態」でした。そして気づいたのですが、思考プロセスの変化が必要だったのです。2D CADでの思考プロセスというのは、考えながら書き、途中形状を見ても、それは完成形にまっすぐ向かっている形状なのです。
建設中の家をイメージいただくと、骨組みを組み上げて、屋根や窓など部材を取り付けたり塗装したりしていますが、あれは「こんな家になるんだな」とイメージできますよね。2D CADでの設計はそういうイメージです。3D CADの場合、3D CADの中で作りながら設計検討するわけではありません。頭の中で設計を行ってから、人に伝えるためのツールとして3D CAD上にアウトプットするのです。
四角い箱を描く場合、2D CADでは底面を書いて、4つの側面を書きます。しかし3D CADの場合、四角い立体を作ってから1面を削除して箱にすることもできます。
この3D CADの思考プロセスって、完成形という形に向かって素直にまっすぐではないですよね。設計途中の形状で、設計検討することが非常に難しいということなのです。3D CADは設計途中の図面を仮に2Dに落としてみても、すべて中途半端です。「すべての形状を作らないと設計検討できない」としたら、ちょっと考えられないですよね。
だから、頭の中で、最初に初期の設計検討をしてからアウトプットする。これが難しかった、でも、3D CADを使って「形を作ってから設計検討をする」としたらそれは本質的に間違っていて、順序が逆です。設計検討なしに形状は出てきませんから。
勤務時代、わたしは人より先んじて3D CADを独学で学んだのですが、それからしばらくして全社的に3D CADを導入しようとなり、トレーニングが開催されました。社内の設計者が集められ7日間のトレーニングを終了し、最終日に講師が質問を募ったところ、一人の設計者から出た質問が「それで、どうやって設計をするのですか?」でした。
この質問は、私の中でとても目から鱗でした。私が分からなかったのはこのポイントだったのだなと。それくらい、道具が変わることにより、要求される思考の変革は大きかったのです。
ということは、3D CAD設計になって、意外と難しくなってしまったのは「途中経過をどのように共有し、検討するか」ということでしょうか。
そうですね。3D CADを利用するにあたっては「設計検討がきちんとできるデータの作り方」は非常に大切だと考えています。あくまで受託設計であって、お客様が作りたい製品の仕様を満たす必要がありますので、設計途中で打ち合わせを行い、必要に応じて修正する必要があります。「確認ができるデータを作る」ことに加え、データ修正の際に「ここを変更すると、ここも変化する/しない」という管理も必要になります。
昔は、2Dの図面が少しくらい完璧でなくても、型屋さんが図面を読んでくれて必要に応じて修正してくれたのですよ。ですから、マスターチェックと言ってデザイナーが現場に行ってチェックしたものです。本当に自分の意図した通りのデザインになっているか、作ってみないと不安がある。そんな時代もありました。
3D CADになって、データの曖昧さは許容されなくなりましたので(ソフトがエラーを出しますので)、よりきちんと詳細検討しないといけなくなりました。そういう意味で、3D CADの伸展は、設計者の能力向上に貢献した部分と、何も考えなくても図形ができてしまいますから、考える力を失わせた面と、両面があると思います。
どのような仕事でも顧客とのコミュニケーションは重要ですね。「検討しやすいデータの作り方」とはどのようなものでしょうか?
一度で形が決まることはありませんので、設計には修正がつきものです。そうは言っても、途中段階での設計検討が3D CADという特性上非常に難しい。頭の中で初期検討を完成させてからソフト上にアウトプットしていく、その思考プロセスの違いについてはこれまで話した通りです。
その後の修正についてどう対応していくのか?ですが、設計検討の際には数字を変えていきますが、変わってほしくない部分は変化したらいけません。
例えば、「ボスがあって、基板があって、ネジがある」とします。孔の位置は一致していないといけませんが、普通に作るとボスを動かしても基板の孔やネジは動きません。これを手作業で直そうと思うと設計検討以前にオペレーションの手間が増えすぎます。そこで、設計要件として必要なものを最初に整理して定義、外部ファイルとして作成し、それらを読み込みながら設計を行うことで修正が容易な設計データとなります。
機械設計の中で「結果的にこの幅になった」や「結果的にこの隙間になった」ということは許されません。それらを論理的に作っていくことが仕事です。例えばケースの幅を変更する際、ケースの幅だけを変えると内部の隙間が増えますね。これは「結果的にそうなってしまった数字の隙間」で、これではいけないのです。ケースがカーブを持った形状だった場合、この考え方では、きちんとした形状になっているかどうかすら怪しい。カーブと隙間の情報を外部に定義しておき、データを編集しても隙間やカーブは保たれるようにします。「できあいの隙間」と「設計によって作った隙間」が最終的に同じ数値であったとしても、その意味合いは全く異なります。
30年というベテランの機械設計者から見て、どのようにしたら「アイデアを提供できる」設計者になれるのでしょうか?
当社は「機械設計にアイデアを」をスローガンに、仕様をいただいて設計するだけではなく、仕様決めからお客様と共にある製品開発サポートを目指しております。
アイデアを生み出すというと、個人が生まれ持った才能のようなイメージがあるかと思います。もちろん、そのような天才的な設計者も、いらっしゃいます。しかし、わたしのように平均的な能力の人間にとって重要なことは「論理的に考える」ことが結局のところ、アイデアを生み出す力となります。
先程の話しのように、「隙間」一つをとっても、「それはどうあるべきか」を考え、「できあいの結果」に委ねないことです。これは、仕様を考える力につながります。仕様は、製品として成り立つために、絶対に守らないといけない要素で、製品は、コア、形態、付随という3層から成り立っています。

製品のコアとは、製品が製品であるために、消費者に価値を生み出すために存在している機能で、ボールペンでしたら「紙の上で圧をかけてペンを動かすとインクがでて文字や図を描ける」などです。形態とはペンのデザイや特徴、付随機能は主にサービス周り、保証やインストールの簡便さなどです。
ボールペンの設計変更で、もし「書けなくなってしまったら」それはボールペンとしてコアの機能を果たしませんからダメですね。
これは、「自身の設計の結果による機能と、製品が、どのようにリンクしているのかを整理する力」です。変えてはいけないところが整理できれば、変えて良い範囲が分かりますので、アイデアを出すことが簡単になるのです。

もう一つ例を見ると、ノートパソコン、四隅の角にRがついていますね。このRは、もっと丸くても良いのでしょうか? 良いかもしれないですし、ダメかもしれませんね。カーブは意匠に関わります。
キーボードのボタンの周りには隙間が空いていますが、これはすべて均一でないといけないでしょうか?これは、均一である必要があるでしょう。ではどれくらいの隙間が最適なのでしょうか?0.5 mm 空けた場合と、0.2 mm 空けた場合では何が違うのでしょうか?
3D CADを使うと考えなくても形状は作れてしまいますが、そうではなく、全てを論理的に「設計」していこうと考えると、「仕様そのものを考える力」が付きます。
お客様に「この試作、原価が高すぎて…なんとか改善できませんか?」などと聞かれるシチュエーションにおいても、この思考を蓄積していくことで、製品のコア機能、形状機能、付随機能が整理できるようになり、改善提案力につながっていきます。
最近気づいたのですが、この思考力は、お客様の作業分析にも役立っています。建設現場や土木現場で、作業を効率化する道具を作りたいというご依頼の場合は、この考え方を作業にあてはめてみます。

作業を観察し、どの作業は何のために行っているのか?価値を生み出すコア作業はどれで、どれが付随的な作業で、その付随作業はなぜ必要となっているのか?など。そうすると、何を改善するべきか見え、アイデアが生まれ、製品仕様の提案に繋がります。
アイデアを出すために心がけている習慣を教えていただけますか?
「とことん理詰めで考える」以外には、中古屋のジャンク品の観察・分析でしょうか。機械設計というは構造の設計ですが、最近の新製品はスマートフォンなど電子的機能のウェイトが大きく、メカ的な参考になりません。
構造のアイデアストックとしてはスマートフォンが登場する以前の機器を研究することが役立ちます。昔のおもちゃをネットで購入して分解するのも良いですよ。
(例えば・・・と言って、ジャンク品を見せていただいた) これは、ヒンジ部分の参考に購入したものです。

左の電卓のヒンジは、極限までスリム化されています。中央は子供のおもちゃです。子どものおもちゃというと、数千円ですが、この小さなヒンジの中に電線が通されています。右もオール樹脂のおもちゃです。このヒンジは2段階でカチャカチャと調整できるようになっています。

他の機械設計者の良い仕事に触れることは、自分へのモチベーションアップにも繋がりますね。
【プロフィール】
会社名 | フォーテック株式会社 / 詳しい情報を見る |
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所在地 | 〒207-0031 東京都東大和市奈良橋6-724-5 |
連絡先 | TEL 042-563-9337 |
業務内容 | 機械設計・3Dモデリング・設計支援・製造コーディネート |
URL | http://for-tech.jp/ |
話し手 | 代表取締役 操 心一氏 |
この記事を書いた人:Haruyo Ono

小野 晴世 (おのはるよ)
Web Rocket Inc. 中小企業診断士
新しいアイデアで挑戦する企業の取り組みを取材します。