市場規模はピーク時の1/7。鉛筆産業に再び活気を取り戻す!老舗鉛筆メーカー「北星鉛筆」の取り組み、循環型鉛筆産業システムとは?

北星鉛筆株式会社は東京都葛飾区にある鉛筆製造メーカーです。大ヒット商品の「大人の鉛筆」をはじめ、自社内で開発・製造した自社商品やOEM商品の製造を行っています。
鉛筆市場が全盛期の1/7になる中、自社製品への取り組みや鉛筆製造メーカーの5代目社長としてのビジョンをインタービューしました。
最初に、業務内容について簡単に教えてください。

弊社は、鉛筆製造メーカーで、自社ブランドやOEM商品の製造を行っております。鉛筆製造の技術を活かし、木軸のシャープペンや鉛筆削りの製造。製造時に出るおがくずを使った粘土や絵の具の製造も行っております。 明治42年に北海道で杉谷木材を開業し、当時は鉛筆用の板を製造し本州に販売しておりました。昭和16年に戦争により板業者が統合され北海道鉛筆材工業組合となりました。翌々年の昭和18年に東京の月星鉛筆を買収し、釧路で北星鉛筆文具株式会社が設立されました。
昭和25年に杉谷木材が月星鉛筆の設備を買収。翌年昭和26年に初代社長が現在の場所(東京都葛飾区四つ木)で北星鉛筆株式会社を創業し現在に至ります。私が昨年に5代目の社長として就任しました。
筆記具の多様化やペーパーレスが進む現代で、鉛筆産業はどのような変化を経験されているでしょうか?
昭和41年に国内での鉛筆製造のピークを迎え、約14億本の鉛筆が生産されました。その後、新しい筆記具の誕生や、少子化に伴う児童数の減少、企業が業務で事務用鉛筆を使わなくなったという背景もあり、昭和60年代になると生産量がボールペンと入れ替わるようになりました。
現在は生産拠点を海外に移した国内メーカーの影響もあり、国内での生産数は年間約2億本となっています。また、生産数が減ったことにより鉛筆メーカーもピーク時は約200社ありましたが、今は30社程度になっています。
鉛筆の生産数はピーク時に比べると80%減、鉛筆メーカーの数も大幅に減っています。昔は筆記用具といえば鉛筆しかなかったので、鉛筆のシェアが高かったのは当たり前の状況であり、鉛筆以外の筆記用具が数多くある現代においては、今の数値が適正になったと考えています。
数字だけ見ると衰退しているように見えるかもしれませんが、鉛筆の品質は年々上がっています。また国外に目を向けると、鉛筆が最も多く生産されている筆記具でもあります。発展途上国の子どもたちの識字率が高くなるほど国外の鉛筆需要は増えてくると考えられます。反対に、国内では鉛筆を使う人が少なくなったという側面もあります。

出典:日本鉛筆工業協同組合ホームページより
http://www.pencil.or.jp/company/rekishi/rekishi.html
基本的な質問で恐縮ですが、鉛筆とは、どのように作るのでしょうか?
大まかに説明をすると、芯をスラットという鉛筆の軸用に加工された板を貼り合わせて鉛筆の形にしていきます。スラットのサイズは縦185mm、横75mm、厚さ5mmになっており、使う木材は切削加工がしやすい「インセンスシダー」という木材を使用してます。
各工程ごとに説明をすると
1.スラット(鉛筆の軸用の板)を削り、芯が入る半円の溝を彫ります。

弊社では、張り合わせたスラットから9本の鉛筆を製造しています。従来の方法では7本しか鉛筆を製造することができませんでしたが、社内で工夫を重ねた結果、9本の鉛筆を製造する技術を開発しました。
開発者は、日本の鉛筆製造技術の向上を願い技術公開をし、今では日本のどのメーカーもこの技術を取り入れて鉛筆を製造しています。
2.スラットに接着剤を塗り溝に芯を乗せます。

芯の種類や太さによって接着具合が変わるため、接着剤や塗布量を変更するなど、微調整が必要になります。
3.溝を掘ったもう一枚のスラットを張り合わせます。

2枚のスラットで芯を挟んで、クランプという締め具を使い一晩乾燥庫の中で乾燥させます。
4.片面ずつ鉛筆の形に削ります。

スラットを反面ずつ削ります。刃物を変えることで、三角・四角・丸などの形をつくることができます。鉛筆ができあがるまでにスラットの約40%が削られて「おがくず」となります。
5.両端を削り終わると9本の鉛筆ができあがります。

もう片面を削ると鉛筆らしい形になります。今までは板状で加工がされましたが、ここからは1本1本加工されていきます。
6.出来上がった鉛筆を穴の空いたゴムのなかに潜らせ塗料を塗ります。

通常1本の鉛筆に付き6~7回重ね塗りをします。ゴムの中にくぐらせて塗料を塗る方法を「しごき塗り」と言います。
7.捺印などの最終加工工程を行います。

HBや2Bといった芯の濃さを表示する捺印や、消しゴムの取り付け、軸への印刷などを行います。色鉛筆など削った状態で出荷する鉛筆は、この工程で先端を削ります。
8.両端を指定の長さに揃えていきます。

鉛筆の長さはJIS規格で17.2cmと決められています。17.2cmというのは昔の男性の中指の先から手の付け根の長さから由来しています。
9.箱や袋に入れて完成です。

色鉛筆の色順包装装置や、ダース箱自動包装装置などを自社内で開発し、高い生産効率と高品質を実現させています。
鉛筆の販売方法が12本入りのダース売りが主流だった時代に、弊社は3本パックを開始。他社もパック売りを始めると、先端を削った状態で販売し、現在の販売形態のベースを作り出しました。
北星鉛筆さまが取り組まれている「循環型鉛筆産業システム」とはどのようなものでしょうか?
循環型鉛筆産業システムとは、鉛筆製造の中で出てくる「おがくず」をリサイクルして商品開発を行い、そこで出た利益を鉛筆製造に還元するといった一連の流れとなります。
鉛筆を製造する中で、材料の40%が「おがくず」になり産業廃棄物として捨てられていました。この状況をどうにか打開できないかと考えた結果、木くずを粉砕する装置を自社で開発し、おがくずを使った製品の開発・商品化することができました。
リサイクルをするなら、形だけではなく、環境も考えた良いものにしたいとの思いから、最終的には土に還るように生分解性にもこだわりました。
なぜ、そこまでやるのと思われますが、弊社の前身は北海道の材木屋でした。木を大切にする文化があり、成り立ちから木に関わっているので、木に対する思いが強く、捨てるのがもったいないという考えでした。

おがくずから生まれた商品たち
リサイクルおがくず粘土「もくねんさん」
土は入っておらず木の粉末が練り込まれており、乾くと木になるリサイクル粘土です。手にべとつかず周囲も汚すことはありません。乾燥後は軽くて丈夫な木になり、穴あけ、接着、切削など色々な加工を楽しむことができます。処分も簡単で可燃ごみとして捨てることができます。土に埋めると分解され土に帰ります。
乾くと木になる不思議な絵の具「ウッドペイント」
鉛筆製造の中で出るおがくずを利用したリサイクル絵の具です。乾燥すると木になります。筆やヘラを使って描くことができ油絵のような風合いを出すこともできます。乾燥後は、紙やすりや彫刻刀などで加工も楽しむことができます。
もくねんさんとウッドペイントの作品を弊社の東京ペンシルラボにて展示しております。
累計150万本のヒット商品「大人の鉛筆」をはじめ、次々と新しい商品開発を行えるコツは?

大人の鉛筆は、弊社の創業60周年記念として生まれました。大人になるにつれて段々と使わなくなってしまう鉛筆を、もう一度、使ってもらい鉛筆の滑らかな書き味を思い出してもらおうと考え開発しました。
弊社の商品は、技術があるから作ってみようという発想ではなく、ユーザーが困っていることを自社の技術で解決できなかという観点で日々、考えています。
- ●鉛筆の芯が折れて困っている
- ●鉛筆の持ち方が分からない
- ●500色の色鉛筆を作りたい
- ●142cmの巨大鉛筆を作りたい
など、とにかく打診されたことは全力で答えを返し、難しいことに関しては「こうすればできるのでは?」といった代案を出すようにしています。例え、その時は利益にならなくても、いろいろなことをやっていく中で、それが点となり、線となってあとから結果がついていくることが多いです。
商品開発の中においては、売れるものしか作らなくなると、技術がなくなってしまいます。技術は残していかなければなりません。そのためには、売れる仕事だけをやらずに、色々なことに挑戦をしなければなりません。その結果として、後世に技術を繋げられるのではないかと考えています。
社長ご自身について教えてください。5代目として、子供の頃から跡を継ぐと思われていたのでしょうか?

そうですね、自然と自分が跡を継ぐのだと思っていました。それは、先代の姿を通して、この仕事が人のためになっていると伝わっていたからだと思います。
先代から、「鉛筆は子供の役にたっている。鉛筆はなくなるけれど、勉強したことは、その人の中に知識として残っていく。」と聞いてきました。子供ながらに、良い仕事なんだなと思いました。今はその思いを自分が受け継ぎ、そして後継に伝えていく役目ですね。
仕事って、先が見えない仕事なのか、世の役にたつ仕事なのか、自分の見方によって変わります。どんなことでも、悪い点はいくらでもありますし、それが裏返せば良い点であることも多いです。ですので、私がこの鉛筆業界をどのように変えていけるかが勝負だと思います。私はもともと柔道部だったのです。練習はきつく、辛いなと思えば辛いですが、自分が成長していると思えば楽しく感じるものです。
仕事のことで言えば、「鉛筆は子供のもの」というイメージがあるかと思いますが、そんなことないですよね。大人のためにだって、あって良いじゃないですか。まだ気づいていない、新しい需要を掘り起こして製品化していきたいと考えています。
5代目としてのビジョンを教えてください。
私が引退する頃までには、鉛筆メーカーさんが増えたら良いなと考えています。ピーク時に200社ほどあったころは、とても活気があったと聞いています。現在は30社くらいになっていて、鉛筆を受注して作れるのは片手の数ほどの企業です。
当社のビジョンは、「鉛筆は我が身を削って人の為になる立派な仕事。利益などは考えず、家業として続けるように」。
これも子供の頃から聞いてきたことではありますが、自分が社長になった今、本当にそうだなと思います。人はみな幸せになりたいと思いますが、自分を幸せにするだけでは、本当に幸せにはなれないと思います。他人の幸せに貢献することが、自分の幸せにつながるのかとつくづく感じます。
他社に貢献して鉛筆業界をもっと盛り上げ、昔のように暖簾分けができて、鉛筆屋さんが増えることが私のビジョンの一つです。
【プロフィール】
会社名 | 北星鉛筆株式会社 |
所在地 | 東京都葛飾区四つ木 1-23-11 |
連絡先 | TEL 03-3693-0777 |
業務内容 | 文房具全般・エコロジー商品の研究開発 |
URL | http://www.kitaboshi.co.jp/ |
話し手 | 代表取締役 杉谷 龍一氏 |
次回は、北星鉛筆さまのギャラリー訪問記と商品レビューをお届けします!
この記事を書いた人:Tadayuki Emoto

江本 忠之(えもと ただゆき)
Web Rocket Inc. 取締役部長
コーヒーが好きです。SEO検定1級